あの夏の日の午後のこと、私はきっと忘れないだろう

「紗良ちゃん、だよね?」

小さく頷くと、嬉しそうに笑う顔に、ドキンと心臓が跳ねる。

「久しぶりに来てくれたのに、ほんとにごめんね……あ、中に入って!着替え……何かあったかな……」

渡されたフェイスタオルを顔に押し当てて、手入れされた庭の様子を見ながら玄関へ進む。

雑草とか、物の配置とか。

少しは変わっているだろうと思った、祖母が好きだった花や木がたくさんの庭は、驚くほどのあの頃のまま。

懐かしさを感じながら、私は玄関の扉を開く背中に目を移す。

元々は祖父母の家、つまりは母の実家だったこの家も、今は伯父である、この人だけが住んでいる。

偶然に、あの電車に乗り、何も考えずにここまで来てしまったけれど。

こんな風に突然押し掛けなければ、この家に上がるチャンスなんて、多分なかった。

「お邪魔、します」

軽く濡れた部分の水気を拭いて、靴を脱ぐ。
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