あの夏の日の午後のこと、私はきっと忘れないだろう
「話すときも敬語になっちゃったし、今度からはそういう感じで話してくれると嬉しいな」
確かに、ここに来た時のひどい緊張はもうどこかに行っちゃってた。
「そうやって、全部なかったことにされるのはイヤなんですけど」
「でも、誰かに言うことでもないよね」
「それは……そうだけど」
「僕の心の中だけにしまっておくよ……あ、加奈子さんには話すかもしれないけど」
「……それも、ちょっとイヤ」
まだ敬語ミックスではあるけど、私と雄太さんの間には落ち着いた親密な空気が漂ってた。
きっとこれが、私たちのあるべき姿なんだろう。
伯父と姪の、適正な距離感。
それを超えているのは今、この握られた手と、私の中に残った10年間の片思い……の、残り火だけ。
会話の途切れた沈黙の中で、私達は見つめ合い……ゆっくりと、握られていた手が解放された。
「……私、別にモテないわけじゃないから」