俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました

「だったら、美夜(みよる)ちゃんが適任じゃないですかね」

美夜の隣で立って聞いていた花恵(はなえ)が、はいっと元気に手をあげると、悪びれもなく発言した。

新井花恵(あらいはなえ)は美夜より5つ年上で、星林亭(せいりんてい)での仕事では美夜が三カ月遅れの同期となる。
美夜と同じように旅館に勤めながら、一人で子育てをしている先輩ママとして、頼りにしている存在だ。プライベートでも仲良くしているし、相談ごとはほとんど花恵にしている。

「え?! わたし……!? そんな偉い人の相手なんて無理です」

美夜がこの旅館、星林亭(せいりんてい)に勤めようと思ったのも、子育てと仕事の両立を支援してくれる場所だったからである。
星林亭は創業100年を超える歴史ある老舗旅館だ。

もてなしも料理も魅力ある宿ではあったが、立地の悪さと、ただ古いだけでクラシカルな趣のない建物では大きな集客力にはならず、細々とした経営であった。
旅館周辺の人口は限られていて、従業員の確保にも手を焼いていた。

そんな時に取り入れたのが、ひとり親で生活をしている人に、住み込みで働いてもらおうという方法だ。
保育施設を旅館内につくれば、職場、自宅、子供を預ける場所が一か所に集約される。
従業員全員で子育てを、をモットーにし、子供の成長に合わせて勤務できるようにした。

旅館内に、MISAIJI(ミサイジ)グループの電子部門が売りに出している、『ウォッチオーバー』という、スマホで子供を見守れる設備を投入し、何かあればすぐに通知が届くようになっている。

職を失ったと同時に妊娠がわかった美夜にとって、星林亭の従業員募集は渡りに船であった。
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