俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました
抱きしめられていると頭がぽーっとした。

大きくて、力強くて、ひとりで頑張らなくてもいいんだよと、甘えさせてくれる。
ずっと張りつめていた心をほぐしてくれるようだった。


「あ、あのね。この間のことなんだけど……」


ここが客室だということも、仕事中ということも忘れて、音夜(おとや)の作務衣をきゅっと掴んだ。

この間の返事を早くしなければと思いつつ、二人きりになるチャンスを狙ってはいるのだが、夜尋がいることもあって、そう簡単に改まった場をつくるのは難しかった。


わたしも好き。音夜と家族になりたい。
でも、難しい。

そう伝えようとしたとき、廊下から、他の従業員の声が聞こえた。


「布団足りそうー?」

「足りない! 藤の間が今日、お二人の宿泊で余るから、一組貰ってくる!」 


藤の間は、音夜と美夜の掃除している部屋だった。
がばっと体を引きはがした直後、花恵が部屋に入ってくる。


「あ、美夜(みよる)ちゃんがまだいた。美才治(みさいじ)さんもお疲れ様です。布団1組もらいますね」


教えながらなので、いつもより作業が遅れている。まだまだチェックアウトの部屋は沢山あるので、早く次の部屋に移らないとだ。


「お疲れ様。運ぼうか?」

「いえいえこれしき朝飯前です! 美才治さんは、帯の練習、頑張ってくださいね!」


帯を指して、花恵は先輩面をした。床に散らばった帯を見て、苦手なのを察したらしい。
ものすごい勢いで布団を抱えると部屋を飛び出していった。
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