俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました
「え、え? そうですか?」
「そうだよぉ。美才治さんも職務以上に二人に構っている気がするし。美才治さんは本社の仕事がゼロになったわけじゃないから、美夜と同じシフトをこなすのは大変なはずなの。
だから本来は朝だけ、夕方だけとか、一日の半分を請け負うはずだったのに、公休も含めてぜーんぶ同じシフトで、退勤後の夜尋くんのお世話までしてるって聞いたからもう……」
「そうだったんだ」
聞かされていなかった事実に驚く。
一緒に作業していても、電話がよく鳴るなぁとは思っていたけれど。
「美才治さんってあのハイスペックでしょ。女はより取り見取りだし、見合い話もたくさんあるけど、誰にも靡かなかったんだって。ずっと想っている人がいるからって噂だったけど、それって美夜ちゃんのことだったの……!?」
花恵は一人で興奮して盛り上がっていた。
急に恥ずかしくなって「やめてくださいよ」ともごもごと言う。
まさか。音夜ほどの人間が、誰とも付き合っていなかっただなんて、まさかそんな。
「花恵さん、詳しすぎません?」
「何言ってるの。こんなの、みんな知ってるよ。MISAIJIグループの御曹司であの顔なんだよ? アイドル並みなんだから」
改めて、すごい人に気持ちを告げてしまったのだと戸惑う。
「今度語る時間くれるでしょ? その時、詳しく聞かせてよ」
こくりと頷き、掃き掃除を終えようとしたとき、車寄せに黒塗りのセダンが到着した。
「あ、お客様かな」
午前中はチェックインできないので、荷物を預けるだけかもしれない。
美夜と花恵はゴミと掃除用具を抱えると、邪魔にならない場所へ移動し、係にその場を任せた。
車はからスーツ姿の男性が先に降り後ろのドアを開けると、女の人が下りてきた。
美夜と同い年くらいに見える。
一言でいうならば清楚。真っ白な肌に赤い唇が映える美人だ。ワンピースに黒髪のストレートをハーフアップにしていた。
「ありがとう」と声をかける姿は、まさにお嬢様。
「うわあ、なんかすごいお金持ちそうな人が来たね! 宿泊者リストに特別室の予約って今日はあったっけ?」
花恵が耳打ちする。
星林亭にはハイクラスまでとはいかないが、室内に露天があったり、ちょっと贅沢な部屋も用意してあった。