忘れさせ屋のドロップス

 遥から言われることなんて分かってたのに、その四文字が、あたしの心の中を藍色の感情でいっぱいにする。

 あっという間に、遥の顔がぼやけてく。

 ずっと我慢していた涙は、引っ込めたいのに、重力に沿って、真っ逆さまに落ちていく。

「華菜とこんな風には居られない……」

「何で、……急にそんなこと、言うの?」

「俺は……ずっと一人だと思ってた。那月が居なくなってから……寂しかったから」


ーーーーそう、見てられなかった。

 あの時の遥は、路地裏に捨てられた猫みたいに哀しい目をして、いつも泣いてた。誰にも見られないように小さく丸くなって。


「……知ってる。だから、あたしは側に居たいの。遥の寂しいも苦しいも分かってる。
……本気に、なってくれなくてもいいの、那月先輩を、忘れられなくてもいいから」

 あたしを見てくれてないこと位分かってる。

 それでも、あたしを抱くことで遥が一瞬でも那月先輩を忘れられるなら、それで良かったし、あたしも遥を求めたから。

 遥の側に居て、抱かれる度に、遥を独り占めした気になってたの。

 馬鹿だよね。
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