忘れさせ屋のドロップス

「華菜を傷つけるの分かってたのに、ごめん。……俺は華菜だけを見てやれない。俺は華菜を……大切にしてやれない」

 やっぱり遥は、気づいてしまったんだ。あの子への特別な気持ちに。

「じゃああの子は?あの子も本気じゃないんだよね?」

 確かめるようにワザと言葉に吐いた。

 遥の顔を見て、すぐに分かる。あたしには、そんな顔一度もしたことないから。


「今は、まだわからない。……でも泣かせたくないんだ。俺のことで。……なんでか分かんないけど……有桜と居たら、ほっとする」  

ーーーーやめて。そんな言葉聞きたくない。

あの子のどこがいいの?ずっと遥の側に居たのに、あたしじゃダメなの?


「や、だ……遥が好きなんだもん。高校の時から、ずっと好きだった……。誰より遥のこと、わかるもんっ……」

 ずっとずっと遥だけだった。

 初めて好きになったのも、初めてキスをしたのも、初めて抱かれたのも。

 いつも遥に夢中だった。一度でいいから振り向いて欲しくて、いつも一生懸命だったの。



「……知ってた。華菜が俺のこと、想ってくれてること。

 俺が一番しんどい時、側に居てくれてたのも華菜だったから。……華菜の気持ち知ってて、ずっと……俺は甘えてたから。……気持ちに応えてやれないの分かってたくせに、……ごめんな」


 声を上げて泣き出したあたしを、遥が両腕で包み込んだ。

 遥の前でこんな風に泣くのも、涙を見せるのも初めてだった。

ーーーーいつも遥が優しくしてくれたから。

 あたしを傷つけないように、あたしの我儘をいつも笑って聞いてくれてたから。

「……や、だ……あたしの、こと……好きじゃなく……ひっく……いい、から……身体の……関係だけ……でもいい、の」

 遥の両腕が、あたしをより強く抱きしめた。

「……そんなこと言うな。……華菜は俺には勿体ないから。……ごめんな。……華菜の気持ちに……俺は応えてやれない」

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