忘れさせ屋のドロップス
どうしてダメなんだろう。あの子よりもずっと前から遥だけを見てたのに。

「遥……好きだよ……」

あたしの声も想いも遥には届かない。

さっきみた水槽の中の泡みたいに届かないまま消えていく。

遥は何も言わなかった。ただ、泣きじゃくるあたしの側に黙って居てくれた。


ーーーーあたしが泣き止むまで、あたしから遥の手を離すまで。


どのくらいそうしてただろうか。

遥はあたしの背中をずっと摩ってくれてた。できるなら、許されるなら、このままずっとこうして居たかった。


初めて、あたしは遥を独り占めした気がした。

「遥……ドロップスちょうだい?」 

遥の胸を両手で押し返すと、あたしは笑った。

「華菜?」

ちゃんと笑えてるかな。

遥は困ったような顔をしながら、ポケットからドロップスを掌に一つコロンと出した。

遥の掌から、ドロップスを摘み上げて口に放り込む。

カロン、コロンとドロップスを転がしながら、あたしは遥を見つめた。 
 

「遥、ありがとう」

遥が大好き。きっと生まれ変わっても、一度は遥に恋をする。

くしゃっとあたしの頭を撫でる掌も、意地悪く笑う唇も、何度も重なった体温の高い身体も、あたしだけを映してはくれない綺麗な瞳も。


全部、全部、忘れない。

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