忘れさせ屋のドロップス


此処どこ?

見慣れない白い天井に、思わず手を伸ばすと、親指の付け根にに繋がれたチューブが見えた。

点滴だと気づくのに数秒かかった。此処は病院だ。

「有桜、有桜?大丈夫か?」


赤茶の髪の綺麗な顔をした男の人が、心配そうに私を覗き込んだ。

あれ?私……そうだ、お母さんの電話に出た後、息が苦しくて、渚さんの部屋で倒れたんだっけ?

この人が助けてくれたのだろうか?

「あの、その……大丈夫、です」

起き上がろうとした私を男が立ち上がって背中を支えた。

「あ、すみません」

「有桜?」

怪訝な顔をした男の掌が私の頬にそっと触れた。

思わず身体が跳ねた。私は男の手を振り払うとベッドの隅まで身体を寄せた。

「え?有桜?」

「何っ、するんですか、やめてください」

「え?ちょ……有桜?お前な、何だよ、それ」

「誰?」

「え?」

長身の男が驚いた顔をして私を見下ろしている。


「あの、誰なの?」

「え?……嘘……だろ、有桜?」


ーーーー有桜?私の名前を知ってる?

 
「何、言って……俺の……名前、わかるよな?」


何を言ってるんだろう。初めて会った人の、それも私が倒れたところを偶然助けてくれた人の名前なんて知るはずがない。


「初めて……会ったのに、名前なんて、知らない」

男が、もう一度、嘘だろ、と呟いて口元を、覆った。

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