忘れさせ屋のドロップス

渚が静かに頷いて、髪を耳にかけて肘をついた。

「でもね、なんで……アタシなの?秋介ならもっと年下の可愛い女の子とか寄ってくるでしょ」 

「なんでって……渚がいいんだよ、俺は」

いまさらそんな質問をされて、不貞腐れた俺を見ながらふうん、と渚が呟いた。

「俺、てっきりさ……」

「別れ話かと思ったんだ?」

 揶揄う様にそう言うと、渚は煙草に火をつけた。

 真横から差し出されたライターで、火を借りて俺も煙草を咥えた。

「正直、悩んだ。……わからなくて」

「俺のこと好きかどうかって?」

「違う。秋介が何でもゆるしてくれるような優しいヒトだから。私みたいな人間と結婚して果たして幸せなのかなって」

「それは俺の台詞だけどな、渚は俺には勿体ないからさ」

ーーーー勿体ない。それは本心で、俺こそ渚に相応しいのかわからない。でもだからと言って、渚を誰にも渡したくない。

「私、きっと仕事も研究もやめないし、やめるつもりもない。家事だって、もし子供できても育児だって、……他の(ひと)みたいに、ちゃんとできる自信ない。秋介に皺寄せいっちゃうでしょ。……でも秋介はそれも全部ゆるしちゃうから」 

 アタシと居て、秋介に我慢して欲しくないんだよ。そう言うと渚は短くなった煙草を灰皿に押し付けた。

「あとね、遥のこと。……あの子を置いて、私は幸せにはなれない。まして、秋介とね」 

ーーーーごめん、秋介が悪い訳じゃなくて、と渚が少し俯く。渚が泣きそうな顔に見えた。

「遥は……那月ちゃんが本当に好きだっだから。私だけ、那月ちゃんの兄である秋介と幸せになっていいのか、やっぱりわからない。……勿論、遥だって、そんなこと関係ないって、俺のせいにすんなって言われそうだけど。でも私は遥にやっぱり幸せになってほしい。……ひとりぼっちは寂しいでしょう」 

「だから有桜ちゃんを側に置いたのか?」
 
 渚は首を振った。

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