忘れさせ屋のドロップス
「姉貴。有桜だけどさ、姉貴のとこで見てくれない?」

「どした?……そろそろ、そう言ってくるかもなって思ってたけど。……何で?やっぱ襲いたくなった?」

 目を見開いた俺を見て、マグカップ片手に姉貴がパチンと指をならした。

「え?あんた、まさか襲ったの?」

「ちょ、何でそうなるんだよ。襲ってねーよ」

 姉貴と秋介が笑った。

「は?何?俺なんか言った?」

「いまアンタは、襲わないって言わずに、襲ってないって答えた」

「それが何だよ?」

「それって、有桜ちゃんのこと、遥が無意識に意識してるってこと?わかる?」

 姉貴がマグカップ片手に俺を覗き込んだ。

「うるせーな。わかってる」

「あっそ……じゃあ那月ちゃんに見えてんだ?」

ーーーー姉貴は勘がいい。昔から。押し黙った俺をみて、姉貴が溜息を吐いた。

「時間だわ。悪い、遥またな」

 秋介はいそいそと、おそらく昨日と同じネクタイを締めると、慌てて出て行く。

「渚ー。……今日も此処帰ってきていい?」

「だめ」

ワンチャン狙って玉砕した秋介が、肩を落としながら出て行った。



「ったく……ほら、スープ飲みな」
俺はスプーンですくって一口飲んだ。

「懐かしいな……母さんの味」

「だろ?急に飲みたくなって、見よう見まねだけど」

 じんわり胃の中があったまって、落ち着く。有桜と居る時と似てる。

 何にも話さなくてもほっとするから。  


「……有桜に泣かれた。俺にそばにいて欲しいって。……俺は、何もしてやれないのに」

「そう……。遥は?どう思った?有桜ちゃんにそう言われて」

「多分……俺は……好きとかそんなんじゃない。でも別に一緒に暮らすのは嫌じゃなくてさ。でも……俺、有桜のこと、多分、那月に重ねてるだけで、那月の代わりにしようとしてる気がしてさ……」

「うん……」

「…俺と居ても、有桜泣かせてばっかだし。
俺は……有桜自身をちゃんと見てやれるか、なんて自信ない」

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