忘れさせ屋のドロップス
第4章 涙の味
ーーーー遥の鼓動にひどく安心して、いつの間にか眠っていたことに気づいた。


「これ……」

 枕元には小さな保冷剤がハンカチに包まれて置いてある。遥だ……私の目が腫れてるから。 

 すぐ泣きそうになるのを堪えて、保冷剤を目の上に乗せる。

 熱を持ってジンジンしていた目元が少しずつ、氷を溶かすみたいに熱が和らいでいく。

「……有桜、そのままでいいから」

 遥が入ってきて寝室の扉がパタンと閉じられた。……どうしよう。合わす顔がない。 


 遥がベット脇に座ると同時に、スプリングがギシっと音を立てて沈む。

「なぁ」

「は……い」

「有桜、海見に行く?」

「え?」

「天気いいし、仕事ないから。気分転換」

 こくんと頷いたら、保冷剤がコロンと落ちた。思わず遥と目が合う。


「えっと……」

「まだ真っ赤。もうちょい冷やしてから着替えて出てきて、待ってるから」

 それだけ言うと、遥は、また保冷剤を、私の両目にそっと乗せて出て行った。

 着替えて寝室の扉を開けるとダイニングテーブルから遥が手招きした。

 思わず笑った私を見て、遥も笑った。

 白いプレートには美味しそうなフレンチトーストが乗っかってたから。

「もう泣くなよな」

 ドロップスをコロンと転がしながら、遥は頬杖をつくと、私にフォークを渡した。 

「いただきます」

ぱくんと頬張る。

「美味しい……」

 私の顔をじっと見ていた遥が意地悪そうに口を開いた。
 
「しばらく、俺作んないからな、フレンチトースト」 

 遥は、私に泣かれるのが嫌だから。

「うん」

 私は遥に笑顔で返した。遥が海で私にどんな話をしようとしてるのか、何となく想像できたから。

「あ」

 ワザとらしく遥が声を上げた。

「遥?どしたの?」

「どこかの誰かさんが、洗濯物干さねーからな、俺が全部干しておいてやったからな」

 にやりと笑った遥に、私は顔が真っ赤になった。

「ま、待って……遥、が、その、あの、全部干しちゃったってこと?」

「お前のだけ干さない方が良かった?」

「……あの、えっと。……ありがと」

 諦めたようにお礼を言った私に、ぷっと遥が笑った。

「どーいたしまして」

遥が私の頭をくしゃっと撫でた。
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