忘れさせ屋のドロップス
「遥なー、アイツしょっちゅう食べてるからな。何度も言ってるんだけどね、また直接叱っておくよ。ま、遥の場合、耐性ができてるから大丈夫だと思うけどね」
「耐性?」
「これも……どちらがいいのか分からないけど、長年、ドロップスを少しずつ摂取すると、忘れたいことは少しずつ、本当に忘れていくの。
そのかわり、その忘れたいことを、再び取り戻すには、時間がかかる。……さっきの話で言えば、遥が、人を好きになることを、本当に忘れてしまった場合、また人を好きになることを記憶として取り戻すには、それ相応の時間がかかる、ってこと、なんだよね」
ごめんね、有桜ちゃんがツラいね、と渚さんが、申し訳なさそうに睫毛を伏せた。
渚さんが時計をちらっと見た。時計の針はもうすぐ15時だった。
「ところで遥は?此処に来ること何か言わなかった?」
「あ、あの、遥と話した後、その、あの遥、眠ってしまって、……その間にご飯作って出てきちゃったので……」
説明していたら、遥とキスをした後、抱き合って眠ってしまった光景が浮かんで、私はしどろもどろになった。
「……ちょっと待って、遥に何にもされてない?」
渚さんが真っ赤になった私を見て、目を丸くした。
「されて……ない、と思います」
「あははっ、成程ね。ま、遥にしては上出来だね」
恥ずかしそうに俯いた私を見ながら、アイツもちゃんと我慢できんだね、と渚さんが笑いながら、マグカップを持ち上げた。
「それで遥は?仕事辞めれそう?」
「……分かりません、お昼に訪ねてきた女の人とは、今夜で最後にするって言ってました」
「そう、週何回アイツ朝帰りしてる?」
「二、三回、位だと思います」
渚さんが、小さくため息を吐いた。
「……有桜ちゃんのことは?那月ちゃんのことは聞いたんだよね?遥はちゃんと有桜ちゃん自身を見るって言ってた?」
ーーーー私はすぐに答えられなかった。遥の苦しそうに涙を溢した顔が忘れられなくて。