冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす
悩みに悩んで、昼休みに薬局に行き、近くのコンビニのトイレで検査薬を使った。
スティック状の検査薬は見る間に陽性を示した。

愕然としながらも、どこかで思う。ああそうか、と。
運命論者でもないし、信心深くもない。だけど、もしかしたら人生には大きな流れがあり、私のお腹に愛する人の子が宿るのは必然だったのかもしれない。

私が望んだ我儘な必然。

総務部のオフィスに戻ると偶然にも豊さんがいた。秘書をしている男性社員と何か話している。
このひと月、ろくに顔を合せなかったのは、彼も私を避けていたからだろう。ようやく会えたけれど、私から何か伝えるべきことはない。

ふと、視線がこちらに向けられる。美しい瞳が私を射抜いている。
あの日のように、とは言わない。だけど、もの言いたげな視線だと思った。

私は臆することなく、無言で彼を見つめ返した。
ほんの一瞬の出来事。私たちは、オフィスで見つめ合った。それから私はすぐに目を伏せ、オフィスを出た。

その日の夜に、私は産婦人科に行き、妊娠二ヶ月であると診断される。そして、翌日には上長である総務部長に退職の意思を伝えた。

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