冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす
「お腹の赤ちゃんの父親を言う気はないのね」

母はそう言って嘆息した。私は静かに頷く。
上司に退職を願い出てすぐに両親には妊娠の事実を告げた。弟の駆け落ちで心身ともにまいっている両親には追い打ちになるかもしれないと思った。しかし、黙っていてもお腹は大きくなるだろうし、私はこの子を産むと決めていた。

「ひとりで産んで育てるつもり?」
「はい。埼玉に、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが住んでいた家があるでしょう。そこに移り住もうかと思っています」

反対しても私の意思が固いことは、両親ともにわかっているようだ。

「あなたが産みたいって言うのだから、大事な人との赤ちゃんなんでしょう。ひとりで育てたいというのもわかる。せめて、出産まではこの家にいたらどう?」
「貯蓄を切り崩せば、出産までひとりで暮らせると思うから。それに、そっちに友人がいて、彼女の家のお仕事を手伝わせてもらえるかもしれないの」

都内のこの家で赤ちゃんを産むわけにはいかない。私の妊娠出産が、漏れるかもしれないからだ。このタイミングで私が妊娠し、シングルマザーになろうとしていると豊さんが知ったらどう思うだろう。

一晩の慰みに使った女。憎い男の姉。
……さらなる迷惑をかけるわけにはいかない。

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