冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす
御曹司なのに御曹司らしくなく、前線でバリバリと仕事をしているという。
彼主導で行われた海外産小麦の安定供給と品質向上プロジェクトで、笛吹製粉は農林水産大臣賞をもらったくらいだ。父から彼の人物像を聞けば聞くほど興味が湧いた。

ダークブラウンの髪と瞳を持ち、高い鼻梁ときりりと結ばれた口元が端整な美男子。切れ長の二重は少し釣り目だけれど、左の目元にほくろがありそれがどこか彼を優しげにもセクシーにも見せる。

愛想のいい人ではないので、一見冷たく見えるけれど、仕事ぶりから皆が豊さんと呼んで慕っていた。役員室と総務部のオフィスが近いことと、役員秘書が総務部の所属になる関係で、私は一般社員よりも多く豊さんと顔を合わせてきた。来客応対や、雑務を頼まれたことも何度かある。

入社前から憧れてきた彼だけど、間近で過ごせば過ごすほど素敵だと感じる。
しかし、この感情は憧れ以上にはならなかった。正確には憧れ以上にしないように努めてきた。

豊さんには婚約者がいる。なんでも衆議院の中安(なかやす)議員のひとり娘だとか。
婚約者がいる人に恋してはいけない。そもそも、傘下企業社長の娘で総務部の一般社員と、次期社長では身分差が大きすぎる。

そんなわけで、二十五歳の私は仕事にまい進しつつ、憧れの男性をそっと眺める日々を送っていた。充分充実していた。
事件は、そんなある日に突然起こった。
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