冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす
「明日海、どうしましょう」

暑い夏の日、汗を拭き拭き仕事から帰宅した私は、玄関先で飛び出してきた母と鉢合わせした。

「どうしたの、お母さん」

おとなしく控えめな母が血相を変えている。その手にあるのは便せん。口をぱくぱくさせて言葉にならない母の手から、便せんを受けとった。

「望(のぞむ)の部屋にあったの……!」

ようやく母が喘ぐように言った。弟の部屋に? 便せんには確かに弟の字が並んでいる。読んで私もぎょっとした。

【父さん、母さん、姉ちゃん
迷惑をかけてごめん。
でも、どうしてもこのままではいられない。
俺は仕事を辞め、家を出ます。】

そこまで読んで、昨晩の弟が思い浮かんだ。いつも通りの望だった。なんにも変なことはなかった。確か、私にアイスクリームのネットクーポンをくれて……。
混乱する頭で続きを読む。

【可世と行きます。
どうか探さないでほしい。
今までありがとう。本当にごめん。】

可世(かよ)、その名前に聞き覚えがあるような無いような……。

「望が家出した?」
「そうかもしれないわ。この可世さんという人と一緒なのかしら」

母は狼狽しきっているが、その口ぶりから同行者に心当たりはないようだ。
望は奥村フーズの跡取り。この春大学を出てから、奥村フーズで父について学びながら仕事をしていたはず。

前途洋々、明るく元気で不安事もなさそうだった望が、どうして家出なんかするのだろう。悪い冗談のようにしか思えない。
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