不倫の女
「なんですか……?」
途端に恐怖を覚えた。
さっきまで奥様との間に浮かんでいたあたたかい感情が急速に冷えたように思えた。
目の前にいる人間がなぜかさっきと同じ人間と同一人物と思えなかった。
人間というより、女、というものを強く感じる。
女という概念が具現化しているような。
なぜそんな風に思うのか、心の奥底では理由がわかっているよう気がするが、言語化できないでいる。
「一点目。復讐は終わったのではなくて、これから始まるの。始めるための準備が、終わったの。とても長かった。私からあの人を奪ったあなた達に対しての復讐」
あなた達? 私と誰のことを指しているのだろう。
あの人、というのは裕太さんのことだと思ったが、あなた達という言葉でわからなくなる。
「二点目。不倫した友人の話。あれは嘘よ。でも、あの話の中で起きた事は現実。嘘だったのは、あれは友人ではなく、私自身の話だったということ」
それに驚きは少ない。
何となくそうではないかと感じていた。
不倫という関係性で生じる感情があまりにも芯を得ていたから。この人自身の体験なのではないかと思っていた。
あの話が奥様自身の話だとしたら――奥様の不倫相手が、奥様が言う『あの人』ということか。
じゃあ、『あの人』というのは――
奥様と思っていた女の口が動く。
「私の不倫相手は、あなたの――」
理解が追いつかない。なにを言っているのか。女の言葉が頭に入っていかない。
「私はあなたの――」
脳が言葉の理解を拒絶している。