君を手に取る1秒前
「いい人、見つけてね。」
そんな嘘みたいな事を、現実だと思いたくない言葉を発する紗奈。
紗奈以外のやつを好きになるとか……無理だ。
次の愛なんて知りたくねぇよ……
すると、紗奈がグーの手を差し出してきた。
「ん。手、出して。」
そして健人の手に置かれたのは、淡い青色のミサンガだった。
「それ、付けておいて。健人が幸せになれますようにって、願っておいたから。」
だから、俺は紗奈のこと以外誰も……
口に出そうと思っても、声が出ない。
その原因は、紗奈の表情にあるのだろう。
辛いはずなのに、無理して笑っているのが分かる。
もう、戻れないのかな。
……2人で、買い物に行ったことがあった。
あの時、お揃いの服を買わなければこんな事にはなっていなかったかな。
あの時……2人で、海に行った時。
俺がアイスを食べていなかったら、こんな運命にはならなかったかな。
でも、そうでないと紗奈の”あの”笑顔は見られなかった。
本当に、終わってしまうのだろうか。
健人はその瞬間にして哀しみの気持ちに駆られる。
「ミサンガ、外しちゃダメだよ。」
ああ、行ってしまう。
「健人、大好きだったよ。」
そして紗奈は、丘の上から姿を消した。
その時の紗奈の切なそうに笑う顔が、目に焼き付いて離れなかった。
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