君を手に取る1秒前
苦しみ
「紗奈、絶対責任感じて学校来てないだろ。」
「………そう、だね。」
「何で。紗奈は何も悪くな……」
「悪いよ!!」
ここまで声を荒らげている紗奈を見るのは初めてで、健人は言葉を飲み込む。
「……私、もう1人の自分がいるの。」
「え?」
「頭の中で言うの。健人はいけない奴だって。死にたい、死にたいって。健人が庇ってくれた時、私、ソイツに操られてたの。それで、勝手に体が動いて………私、死にたくないのに、車が近づいてきて……怖くてっ」
紗奈が、目の前で体を震わしている。
抱きしめてやりたい。
でも、今は違うような気がして伸ばそうとした手を下ろす。
「紗奈は、もう学校には来ないのか?」
「……うん。」
何でそこまで紗奈が責任を感じる必要があるのかと、言ってやりたかった。
初めて、彼女に文句を言おうと思った。
こんなの文句に入らないかもしれない。
でも、見ているのも痛々しいほど苦しそうな顔をしている彼女を見ると、文句など言えそうになかった。
「……何で、紗奈がそんなに苦しそうな顔するんだよっ……」
こんな顔をさせるなんて、俺、最低だな。
紗奈の異変には気づいていたはずなのに。
事故の日、紗奈が学校を抜け出した時、一目散に気づいてこの胸に抱きとめてやれなかった。
情けねぇなぁ、俺。
「…………から。」
紗奈が、小さくて消え入りそうな声で何かを言う。
「え?」
「もう、健人には会えないから。」
「…………は?」
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