わけあり家令の恋
 その時、昨夜の栄の言葉が蘇った。

 ――そんなにお好きなんですねえ、あの方が。

 さらに栄は真実を打ち明けるよう何度も亮介さんを説得していた。このまま心を偽り続ければ必ず後悔するからと。

「桜子さん」

 亮介さんはひとつ息を吐くと、顔を上げ、まっすぐ私を見つめてきた。

「あなたは新興成金の加瀬家をばかにするどころか、使用人のひとりひとりまで気遣ってくれた」

 その表情は小さな子供のようにひどく頼りなげで、今にも泣きだしそうに見える。

「どうか教えてください。あなたがおっしゃっていた想い人……あれは家令の杉崎の……つまり、私のことでしょうか? もし違うのなら――」

 実を言えば私はまだ混乱していたし、自分を騙そうとした亮介さんに腹を立ててもいた。

 それでも彼に言うべき言葉はひとつしかないとわかっていた。
 水色のマフラーを編んであげたい人もひとりしかいない。

 私は立ち上がり、大きく頷いてみせた。

「さようでございます、旦那様」
「では……離婚は撤回して、私の妻でいていただけますか?」
「はい」
「桜子!」

 どちらが先に動いたかは覚えていない。
 気づいた時には、私と亮介さんはこれ以上できないくらいしっかりと抱き合い、唇を重ねていた。

 こうして私たちはぎこちなく、けれども強く思い合いながら、ようやく夫婦として歩み始めたのだった。 (了)
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