*結ばれない手* ―夏―

[25]過去と未来

 一方、ピンク色の空気が辺りを立ち込める幻に翻弄(ほんろう)され始めたモモは──。

 ブンブンブンッ!!

 その(もや)を払いのけるように、一度首を勢い良く左右に振った。

「一緒に東京へ行って……思わなかった?」

 ふと立ち上がった杏奈が背を向け、首だけをモモに戻して問いかけた。

「自分が、『井の中の(かわず)』だと」

「……!」

 図星な答えに目を見開くモモ。

 ──確かに……でも──。

「私の所に来て、もう一度勉強してみない? 高校へ進学して、大学にも通って……留学もいいわね。私、貴女なら素敵なレディになれると感じたのよ。ナギがブランコ乗りとして貴女を育て上げたかったように、私も貴女を一人前の女性に仕上げてみたくなった……悪い話ではないと思うけれど?」

 再び正面に戻ってきた杏奈の自信あり気な視線に気圧(けお)され、モモは刹那に首を下げ()らした。

 あの煌びやかな世界を眩しいと思った自分。

 ──羨ましいと感じたのか? それとも?


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