*結ばれない手* ―夏―

[26]陽炎と影

 高く昇った陽光が、モモの混乱した頭頂部を照らしていた。

 進める足先から伸びる影は、湯気でも立ち上りそうなほど黒々としている。

 それでなくとも抱えた大きな難題に、モモはクラクラしてしまいそうだった。

 ──先輩……もうお父さんの元へ帰ったんだろうか……?

 十五分ほど交通の激しい大通りの端を歩き続けると、見知った商店街のアーケードに辿り着いた。

 ここを抜ければ街並みの先にサーカスのテントが見える筈。

 異母兄妹──杏奈の「元々そうなのかも」という言葉の真意はここにあった──半分でも血の繋がった相手に恋するなんて、生まれた時から無理な話だ。

 自分の母、凪徒の父……は、自分の父親で、自殺した兄と先輩だった兄。

 そのどちら共に婚約者である女性が、自分の世話を買って出たいと言う……目まぐるしく脳裏に浮かぶ凪徒と杏奈と……そして見たこともない影法師三人。

 陽差しを和らげたアーケードと、店から漂う冷房の涼しさが、どうにかモモの意識を保たせていた。


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