*結ばれない手* ―夏―

[28]迷走と失踪

 列車内は意外に空いていた。

 しばらく呆然と扉の前に立ち尽くし、流れる景色を目にしていた凪徒だが、ほっと息を吐き出し近くの座席に腰を降ろす。

 ──まったく……ヒヤヒヤさせやがって。暮が来たから良いものを……あんなことで怪我したら、俺はどうしたらいいんだよ……。しっかし何であいつら、俺の居場所が分かったんだ?

 なすすべもなく見送ったモモの必死な姿を思い出し、途端胸の奥が握り潰されるように痛んだ。

 もう一度深く呼吸をし、(うつむ)いていた顔を上げる。

 首を(かし)げて背後の青々とした空を見上げ薄く笑う。



 ──もう……俺がいなくても、ブランコ乗れるよな、モモ──。



 ☆ ☆ ☆


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