*結ばれない手* ―夏―
「あいつ、迷ってたのかな……」

「え?」

 サーカスへ戻る車内。

 運転席の暮がぼそっと(つぶや)いた疑問に、ようやく落ち着きを取り戻した助手席のモモが尋ねた。

「だって昨日の夜に出ていったんだろ? 一晩中駅の周りをうろついていて、もう翌日の午後だ。……ずっと行こうか戻ろうか、悩んでいたんじゃないのかな」

「……」

 モモはその説明に視線を落とした。

 自分の叫びが不覚にも凪徒の背中を押してしまうなんて……。

 ──でも……叫ばずにはいられなかったんだ。

「モモ……あの姉ちゃんから何聞かされたんだ」

 暮が一瞬横目でモモの表情を探る。

「おれは団長から凪徒の過去と……モモとの『繋がり』を聞いた」

「えっ?」

 後部座席の秀成が声を上げ、モモは困ったように背もたれに預けていた上半身を起こした。

「あたしも多分、暮さんとほぼ同じことを聞いたのだと思います……」

 弱々しい返事が、エンジン音に掻き消されていく。

「そっか……。一人で抱え込むなよ、モモ。おれ達がついてる」

「……ありがとう……ございます……」

 やがて駐車場に戻された営業車から降りたモモは、一つお辞儀をして足早に去っていった。


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