*結ばれない手* ―夏―

[29]道草と追跡

 翌朝のミーティングにて、団長は空中ブランコのメンバー編成を、鈴原夫人とモモの『女性ツートップ』で行なうと決めた。

 ほぼそれを予測していた暮・秀成・モモは驚きもなく(うなず)いたが、夫人を始めとした他のメンバーは、その時初めて凪徒がいないことに気付き、しばらくの間スタッフ達のざわめきは止まらなかった。

「落ち着け~凪徒は家庭の事情で数日ここを離れとる。あいつの分まで宜しく頼むぞ、みんな」

 この時点で凪徒が辞表を提出したことを知っていたのは団長と暮のみ。

 失踪したことは、その二名に加えてモモと秀成。

 秀成はリンに話しかねなかったが、暮からのキツいお達しにより凪徒の秘密は固く守られていた。

「モモちゃん、今日からよろしくね」

 夫人が本番に出演するのは、春にモモが誘拐されていた期間以来だ。

 モモより一回り近く年齢は上だが、今なお健在な夫人の舞が見られるとなれば、男性ファンの興奮はひときわ大きいだろう。

「こちらこそ、宜しくお願いします」

 いつも通りの美しい微笑みと優しい眼差しに、モモはしばし心が癒された。

 ──ちゃんとやれる。きっと、絶対──。


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