*結ばれない手* ―夏―
「彼女はとある当てを見込んでそこを訪れていたようだったが、残念ながら既に消え去っていたらしい。余り深くは明かしてくれなかったが、どうやら君のお父上は、椿さんが以前働いていた邸宅の(あるじ)だったようだ。が、彼は半年前に心筋梗塞で亡くなっていた。おそらくは、と思うのだが、彼は既に伴侶を亡くして久しかったから、椿さんを後妻として迎えるつもりはあったのだろう。けれど彼にはまだ成人前の娘が三人もいたからね、彼女達に話すタイミングを見極めている内に……という経緯(いきさつ)だと察せられる」

「……」

 モモとそこにいる残りの五人は、何も声に出せないまま(うつむ)いてしまった。

 母親はともかく、これでモモの父親は既に他界したことが明確になったのだ。


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