*結ばれない手* ―夏―
「まぁ、そのスニーカーでも合っているみたいだし、それで決定にしましょ。そのまま脱がなくて大丈夫よ。ね、ちょっと、彼女のタグ、取ってあげてくれる?」

 と杏奈は有無を言わせず店員に注文をつけ、レジに向かってしまった。

 ──はぁ……何だか先が思いやられる……。

 会計を済ませた杏奈の早い歩調について行くことだけに専念し、再び車に乗り込んだモモは、眼下の自分の生足を見て思わず恥ずかしくなった。

 練習着も本番の衣装もミニスカートではあるのだが、どちらの時も厚手のストッキングやタイツを履いている。

 こんなに露出するのはもしや中学の体育以来なのでは? といささか自分自身に呆れ返った。

「さ、着いたわよ」

 そんな落ち着かないドライブは十五分ほどで終わり、気付けば二人の乗った車はビルらしき建物の車寄せに横付けされていた。

 守衛のような制服の男性が運転席側の扉を開け、降り立った杏奈に挨拶をした。

「いらっしゃいませ、お嬢様」

「ありがとう。社長はいらっしゃる?」

「本日は大阪へ出張中でございます」

「そう……では数分で戻りますから、車はこのままで宜しいかしら?」

「はい。念のため、鍵をお預かり致します」

 杏奈と数回やり取りをした守衛は鍵を受け取り、助手席側の扉を開けてモモの降車を待った。


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