*結ばれない手* ―夏―
「んじゃ、食後の運動がてら走っていくか? 車で渋滞に巻き込まれるよりマシだろ?」

 ──やっぱり……!? でも一体何キロあるのだか……。

 疲れを知らない凪徒の発言に、モモはつい苦笑いをした。

 が、意外なことにリンも同調し、ゲンナリした秀成と暮の背を押して走り出してしまった。

「ぼ、僕、体力係じゃないんですからっ! 会場までなんて無理ですよ~!!」

 ちなみに秀成の算出したルート距離は駅まで二キロ、駅から河川敷までは四キロ半。

 明らかに日常運動していない秀成には過酷過ぎる行程だ。

「ヒデナーもたまには運動しないとっ! 大丈夫ダヨー、駅からシャトルバス出てるから、リンと一緒に乗ろっ!」

「おれもそっちに激しく同意~!」

 と、既にサーカス内では長老組の暮も弱音を吐き、やがて二人の息を切らした男共とまだまだ元気なリンは、駅のバス乗り場に並んでしまった。

「行くぞ、モモ。あいつらより先に着かなきゃ男がすたる!」

 ──あたしは男の人ではないのですが……。

 何故だかバスに闘争本能を燃やしてスピードを高めた凪徒に、今日何度目か分からない苦笑を(こぼ)しモモはその後を追った。

 リーチにかなりの差があるものの、モモはその距離を縮めることはなきにしろ離されることもなかった。

 中学の時には陸上の応援にも駆り出されていたし、毎日の鍛練と訓練を考えたら、その時よりも今の方が時間を掛けられている。

 四キロ半程度なら、もしかすると凪徒を追い越すことも不可能でない体力とセンスを持っていた。


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