*結ばれない手* ―夏―
「到着~!」

 弾んだ息を整えながらシャトルバスの停車場を目に入れたが、まだ三人の乗った物は辿(たど)り着いていないようだった。

 後ろ上方から心臓に響くような大きな花火の音が聞こえる。

 見上げれば鮮やかな大輪が花開いていた。

「着いたら携帯に着信があんだろ。先に行ってようぜ」

「あ、はい」

 花火大会の看板を背負った弓なりのゲートを抜け、露店の並ぶ正面通路を二人は進んだ。

 夕食後なので食欲はそそられないものの、物珍しい食べ物も多く目は釘付けになる。

 明々(あかあか)とした花火が舞い上がればそちらを仰ぎ、モモの首はあちらこちらへと忙しかった。

「おい、はぐれんなよ」

 土手に近付くほどに人ごみが密になり、また残り四十分となった会場からは、終わりまで見ずに帰ろうと逆流する集団も増えて、凪徒は思わずモモの手首を取った。

 モモは今春の誘拐事件から帰還した夜を思い出した。

 凪徒に同じく手首を(つか)まれ、葉桜の並木道を歩いたことを。

 あの時は厚着をしていて洋服越しだったが、今はそのまま凪徒の掌の熱が伝わってくる。


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