*結ばれない手* ―夏―
 流れる人波を()けながら広い背中を目に入れて、モモは切なく溜息を吐いた。

 あの時交わした約束はもう叶わないのかもしれない──来春の夜桜を一緒に見ること──どうして? こんなに近くにいるのに──。

 モモには溢れる人の山しか見えなかったが、河川敷の斜面手前まで届いたらしい。

 凪徒はモモの手首を引っ張り、自分の前に少女を立たせた。

 眼下には驚くほどの人の頭、そして頭上では(とどろ)くような重低音を響かせて、降ってきそうな近い夜空に色とりどりの花びらが舞い散っていた。

「わぁ……っ!!」

 あの川面(かわも)の桜の絨毯を見た時と同じ感動が湧き上がってきた。

 自分を照らす光の渦、そして後ろを見上げれば照らされる遠くを望む彼の顔。──しかしその時、

「あらん……もしかしてお邪魔だった? 意外に仲いいんじゃない。()けちゃうわね」

「あ……んな、さん……?」

 斜め左から土手を上がってきた色気のある浴衣姿は、紛れもなく杏奈だった──。


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