*結ばれない手* ―夏―
「貴方が“いい加減”『結論』を出さないからよ。ハッパかけてあげてるんじゃない。おじ様も五年も猶予を下さったのに……その愛情に感謝したっていい筈よ」

「あいつが愛情……? 馬鹿を言うなっ」

 凪徒は「これ以上抜かすな」といった具合に手首を締め、やっと杏奈の嗤いは消えた。

 と同時に腕を振り払い二の句を継ぐ。

「いい? 貴方が動かないなら私が動くわ。もうこれ以上中途半端なことはやめて。そんなの貴方のためにもならないし、モモちゃんのためにもならないわ」

「あ、あたし……?」

 ようやく声を発したモモだったが、その会話の意味は全く分からなかった。

 二人の関係はそれなりに見えてきたが、どうして自分が巻き込まれているのか。

「お前に言われなくたって、俺はもう動くことに決めたんだ。これ以上掻き回さないでくれ……」

「……そう。ならいいわ」

 今回の『勝負』も杏奈の勝ちのように、凪徒は疲れた言葉を吐き出し(きびす)を返した。

 見守る三人の横をすり抜け出口へと向かう凪徒を、杏奈以外、モモはもちろん暮でさえも、振り向き見送ることは出来なかった──。


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