素敵な天使のいる夜にー4th storyー
ーside 大翔ー



精神科病棟で学ぶことは、沙奈が話してくれた心の治療を専門とする医師になることへの最初の一歩だと思う。


ずっと、この実習に向けて沙奈がどんなに体調が悪くても少しずつ着実に準備してきたことを1番近くで見てきた。


だからこそ、沙奈のことを止めることができなかった。


今すぐにでも、沙奈のことを休ませてあげたい。


そんな時、虹夏から1本の電話があった。


その知らせはきっと、沙奈が限界だと示しているものだった。


「沙奈ちゃん。朝よりだいぶ体調が落ちてきている。心苦しいけど指導医として…医師としてドクターストップを出すわ。」


やっぱりそうだよな。



ここまでよく耐えたと沙奈を誇らしく思う。



「分かった。すぐ仮眠室に連れて行ってくれるかな。俺もすぐに向かう。沙奈にもそう伝えてくれ。」



「分かった。沙奈ちゃんに伝えておくね。」


それからすぐに沙奈のいる仮眠室へと向かった。


苦しそうにしている沙奈を見るのは、未だに慣れることができない。


虹夏から車椅子で運ばれてきた沙奈は会話することもままならない程、体調が悪化していた。



ここまで沙奈を信じて、みんなと同じように実習を受けさせてくれたのは虹夏が指導医で川崎教授が沙奈の思いを汲み取ってくれたから。



静かに横たわる沙奈を、自分に引き寄せる。


「よく頑張ったな…」


抱きしめた腕に自然と力が入ってしまう。


沙奈を抱きしめた時、迷っていたことも不安もこの体温から静かに伝わってくる。



沙奈は涙を流すたび、いつも謝ってくる。



だけど



泣いてくれた方が楽だと思うほど、沙奈には静かに耐えてきた痕跡ある。



どうすれば常に張り詰められていた緊張の糸が解けるのか。



肩の力を抜いて生きていくことができるのか。



自分自身への問いは喉元まで込み上げてくるけど、今は沙奈に寄り添いたいと思う。


沙奈が少しでも生きやすくなるように


辛さを話す準備ができるまで、ただ隣にいたい。



そういう信頼の積み方だってあるから。



沙奈の手を握り、沙奈の回復を静かに祈る。
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