素敵な天使のいる夜にー4th storyー
「大翔先生…」
「隣でみてきたから…全部知ってる。
だから…
止めたくなかった。」
その一言に、私はゆっくり顔を上げる。
切ない表情で、優しい瞳でまっすぐ見つめれ胸が締めつけられる。
「本当は、送り出したかった…
『頑張ってこい』って笑って送り出したかった。
でも…」
再び大翔先生に抱き寄せられる。
抱きしめられる腕の力が、少しだけ強くなる。
「沙奈の顔色や呼吸状態を見て。
核心をつかれた検査結果を見て。
医者としてではなく、1人の男として思った…」
大翔先生の話す声が少しずつ苦しくなっていることに気づく。
「このまま実習に行かせたら、沙奈を失うかもしれない。
そんな未来だけは、どうしても受け入れられなかった。」
思わず息を呑む。
初めてだった。
いつも穏やかな大翔先生が、こんなにも弱い表情を見せたのは。
「大翔先生…」
「沙奈…。俺はお前を失いたくない。
沙奈とこの先もずっと一緒に生きていきたい。」
熱を帯びた唇で、優しく私に口付ける。
それからそっと身体を離した。
「沙奈。精神科の実習には逃げない。」
大翔先生は、優しく微笑んだ。
「例え、何年もかかったとしても。元気になったら、また挑戦をすればいい。」
そっと額を寄せる。
「でもな。沙奈は1人しかいないんだ…
俺にとって、沙奈の命の方が何倍も大事なんだ。」
堪えていた涙が、ぽろぽろと溢れ出た。
「…大翔先生。私…」
「ん?」
「本当はずっと先生のそばにいてもいいのか分からなかった…」
大翔先生は何も言わず、静かに聴く。
「だから。最初は信じられなかった。
大翔先生は、どうして私を大切に想ってくれるんだろうって…
病気を持ってて、心配ばかりかけて。
迷惑しかかけてないのにって…」
涙で言葉が途切れる。
「でも…。先生が『失いたくなかった』って言ってくれて。
私、先生のそばにいてもいいって。
先生と生きていいんだって思えた。」
「当たり前だ…」
耳元で優しく囁く。
「生きていてくれるだけでいい。それだけで、俺は幸せなんだ。」
「ありがとう…。先生…」
「うん…」
「ちゃんと、治療して必ず回復します。」
「俺も…。少しでも早く沙奈が元気になれるように治療を頑張るから…沙奈も沙奈のペースでゆっくり回復していこうな。」
決して治ることはないとしても。
回復するために必要な休みだと、今なら心から思えた。