美雪
終焉
 紅に染まる空に、珊瑚色の雲が空に浮かぶ。遠くの山で、狂ったようにカラスが鳴いている。
 死体の並ぶ、血にまみれた戦場が、さらに紅く染まる。

 その景色とはあまりに不似合いな可憐な少女が、無数の死体を前に立ち尽くしている。

 彼女はこの凍えるような空気の中、薄手の真っ白な着物と青い帯を身にまとっている。
 彼女の長く伸ばした髪の毛は冷たい北風になびき、夕日を反射させて流れている。

 凍てつくこの戦場で生きているのは、彼女と、彼女から約三キロ後方にいる者達だけだ。
 そこには車が数十台待機して、戦場の様子をただ見ているだけだ。

 そこから一台の車両が走って来る。
 車から降りた二人の男女が少女に駆け寄り、男は少しおびえたようにそっと声をかけた。
「…大丈夫か美雪。」
 少女は青ざめた顔で振り向いた。透き通るような肌を持つ彼女の表情は、苦痛に歪んでいるにも関わらず、彫刻のように美しい。
 男は震える美雪の肩を抱こうとしたが、慌てて走ってきた女にその腕を掴まれた。
「だめです隊長。死にたいのですか?」
「す、すまない西藤君。」
 冷静に上司の腕を押さえる、その西籐という女は、凛という言葉があまりにも似合う女だった。女の声を聞いて我に返った男は、何も言わずに彼女に背を向けて歩き出した。

「直人…」
 自分の名前を呼ばれても男は答えない。


< 1 / 27 >

この作品をシェア

pagetop