美雪
「あたし、これでよかったの?こんなに、こんなに人が!」
 美雪は取り乱した様子で直人に近づこうとしたが、西藤が銃口を向けてきたので足を止めて女の方を向いた。

「戦闘状態のあなたは生身の人間には危険です。隊長から離れてください。」
「西藤さん、用があるのは直人だけです。」

 美雪の態度は銃口を向けられた少女のものとは思えない。
 だが、銃などでは美雪にかなわないのは西藤にはわかっていた。
 西藤は、美雪がたった一人で国家を悩ませるテロリスト達を全滅させてしまったのを見ていた。
 
 だが、純白の着物には返り血など少しも付いていない。
 早さも攻撃の威力も場数も美雪の方が圧倒的に上だった。

「やめないか美雪。」
 二人のやり取りを直人が止めた。
「美雪、君は悪くないよ。あいつらはたくさんの人達を殺した連中だ。君がやらなきゃ私たちがやった。どうせ死ぬ連中だった。むしろ君は私達を救ってくれたんだ。」 
「でもこんな…」

 直人はもう話すことはないと言うように、再び彼女に背を向けた。
「隊長。早く避難しないと…」
「ああ。」
 男は少女を戦場に残したまま車に乗って立ち去った。

 美雪は死体の山にたった一人残され、目の前に広がる風景を見つめた。
 
 見渡す限りの屍を。
 
 赤と黒だけで描ける地獄を。

 自分が一瞬でつくり出してしまった現実を。

 美雪の絶叫が戦場に響き、彼女の足元がどんどん白く凍り付いていった。
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