美雪
 ようやく笑いがおさまった一人が、また話しかけてきた。
「雪女さんはこの暑いなか大変だよな。涼しくしてあげるよ。」
 さっき走っていったうちの一人が戻ってきた。ホースを持っている。嫌な予感がした。

「おーい水出してー」
ホースの先端を持った男子が言う。

 ばしゃあぁ。

「きゃっ!」
 あたしに向かって、ホースから勢いよくふき出した水で、ずぶ濡れになってしまった。
 顔に水が当たらないようにうずくまったが、髪の毛を掴まれて無理やり立て膝にさせられた。

 掴まれた髪の毛が痛くて動けないでいると、鼻をつままれ、口にホースを突っ込まれた。
 
 口腔に勢いよく流れ込んでくる水で息ができなくなった。
「んんぅ!」
 抵抗しても、髪の毛を掴まれているので、顔が動かせない。

 痛くて、苦しくて、死ぬかもしれないと思ったとき、昼休みの終了を知らせるチャイムが鳴った。
「やべっ!次体育だ!」
 そう言って男子達は校舎に入っていった。
 
 あたしはしばらく呆然として動けなかったが、ずぶ濡れの姿をクラスメイトや先生に見られたら面倒臭いことになると思って、午後の授業に出ずに帰った。

 次の日から、学校に行くのをやめた。

 男子達にひどいことをされるのが怖いという理由をつけて登校拒否した。
 
 前から我ながら甘ったれていると感じたが、学校に行く気になれなかった。いじめられるのはさほど怖くはなかった。
 
 でも、他人に触れることが嫌になった。

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