15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
「じゃあ、終わったら電話ください」

「はいはーい」と、義母は病院に入って行った。

 私は病院の駐車場に車を停めて、十分ほど歩いて地下街に入り、ブラブラする。

 義母から電話が来るまで約一時間半。

 いつもこうして時間を潰す。

 まぁ、家族へのお土産を買うだけだが。

 先月来た時には売り切れていた季節限定のあまおうロールケーキを見つけ、和栗のロールケーキと二本買った。

 早々に用が済み、私はいつものカフェでコーヒーを飲むことにした。

 平日の午前とあって店内はガラガラで、私は窓際のソファ席に座った。

 窓の向こうには、足早に通り過ぎるサラリーマンや、友達と買い物を楽しむ主婦の姿。

 私は毎月、この店でこうしてコーヒーを飲みながら、行き交う人たちを見ている。

 やめればいいのに。

 なぜやめないのかは、私にもわからない。



 あ……。



 先月は見なかった、目当ての女性がビルから出て来た。

 地下直結のビルに職場がある彼女を、私は知っている。

 今日も、相変わらず美人だ。

 小さな顔に、シミも吹き出物もなさそうな肌。真っ直ぐに伸びた腰までのブラウンの髪に、抜かりないメイク、ネイルもばっちりで、ベージュのロングコートの合わせ目からは、見るからにバリキャリですって紺か黒のスーツが覗いている。そして、七センチくらいはあるヒールに、高そうなバッグ。



 ある意味、十五年前より若いんじゃない……?



 行儀悪く頬杖を突き、じっと見つめる。

 待ち合わせをしているようで、その場を動かない。

 三分で、お待ちかねの人物が登場した。

 今朝、見送った時と同じスーツにコート、鞄を持った男。

 二人は簡単に挨拶を交わし、駅に向かって歩き出す。

 私はじっと見ていた。

 二人が鞄一つ分の距離を保って並び、私のすぐ目の前を通り過ぎていくのを、じっと。

 じっと。

 カフェの窓はマジックミラーになっていて、中から外は見えても、外から中は見えない。

 だから、どんなにじっと見ていても、二人に私は見えない。



 相変わらず、お似合い……。



 私はようやく視線を移し、コーヒーを飲み干して店を出た。

 スマホを見るが、まだ義母からの連絡はない。もうすぐ昼だ。

「お母さん?」

 背後からの声にハッとして振り返ると、和輝がいた。

「なんで――」

「――じゃあ、私は失礼します」

 少し離れた場所にいた彼女は、和輝に会釈した。私にも。

 だから、私も会釈した。

 モコモコのダウンコートを着て、化粧もそこそこの顔で、去年の春のセールで買った流行おくれのバッグと、スイーツの袋を持って、会釈した。

 彼女の方は、遠目で見えた通り、透き通るような白い肌に控えめだけど上品なピンクベージュのリップにお揃いの色のネイル。目はあまり大きくないけれど長いまつげが綺麗にカールされていて、人形の目のようだ。

 惨めだった。

「じゃあ、また。お疲れ様です」と、和輝が言った。

 彼女を見て、言った。

 それから、私を見た。

 さぞ、残念だろう。

 私はまた、惨めになった。
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