15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
*****
翌朝。
私はいつも通りに起きて、朝ご飯とお弁当を用意し、いつも通りの時間に子供たちを学校に送り出した。
昨日の夜から何か言いたそうにしていた夫は、結局何も言わずに出社した。
和輝は、感情に任せて暴言を吐くようなことをしない。
言いたいことがあっても、それを言ったら相手がどう思うか、自分はそれを言って後悔しないかを考えてしまうそうだ。
私の、夫の好きなところのひとつで、嫌いなところでもある。
そういう夫だから、いつも私が小言を言う程度で、喧嘩にはならない。
私も、夫が意見を言う時は考えた末に言うべきだと判断したとして、冷静に、真剣に受け取る。
そして、そういう時の夫の言葉を否定したことはない。
それが、私たち夫婦のカタチ。
けれど、考えないわけじゃない。
和輝はきっと、言いたいこといっぱい我慢してるよね……?
そういう夫に、私はこれ以上何を望むのだろう。
「いらっしゃいませー」
自動ドアが開くと同時にベルが鳴り、店長がお客様を迎えた。
私は検品中に鳴った電話の対応をしている。
「ちゃんと注文いただいてますよ」
お得意様の書道教室の先生は高齢で、筆の注文をしたかどうかがわからなくなって電話してきた。
「半紙をお届けした時に、店長に大筆と小筆を三十本ずつ注文されてます」
受話器の向こうで、『ああ、そうだった』と安心した声がした。
毎年、もう年だから教室を閉めると言いながら、筆や半紙の注文をしてくれている。
電話を切って、検品を終えた段ボール箱の前に屈む。
「柚? 小澤のじーちゃんか?」
店長が顔を覗かせる。
「うん。筆、注文したっけって」
「注文したこと忘れても、注文したかなって思い出すのはすげーよな」
店長の哉太くんがケラケラと笑う。
店長と言っても、私より八歳年下で、私が高校生でアルバイトを始めた頃は小学生だったから、どうしてもタメ口になってしまう。
私が働いていた時に店長をしていた彼の父親は、四年前に親の介護をするために店を閉めようとしたのだが、三男の哉太くんが仕事を辞めて店を継ぐと言い出した。で、妊娠と同時に退職した私に声がかかった。
パートとして戻って来て欲しい、と。
今、店は哉太くん哉太くんの奥さんの瞳さんと私、大学生のアルバイト二人で回している。
私は、新学期に向けたノートやペンケースなんかが入った段ボールの底に手をかけた。腰にグッと力を入れる。
「柚?」
「ん?」
「もしかして、その箱、持とうとしてる?」
「うん」
「お前さぁ――」とため息をつきながら、レジからバックヤードにやって来る。
とは言っても、レジのすぐ背後がバックヤードになっているのだが。
「――こんなん持つ時は俺に言えよ」
そう言いながら、ひょいっと段ボール箱を持ち上げ、レジ横に置く。
ここで、レジに価格が登録されているかを確認し、ラベラーで値札を貼る。