15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

「いつの話――」

「――もう、一人が平気になったか?」

「え?」

「昔は、一人でいるのが嫌だって言ってたろ」

 そんな頃もあった。

 ずっと実家暮らしで、一人暮らしの経験のないまま結婚したから、一人で過ごす夜が心細かった。

 特にこれといった趣味もないから、ボーッとテレビを見たり、ちょっとインターネットを見たりするしか時間の潰し方がわからなくて、和輝がいない夜は九時過ぎには寝ちゃったりして。

 子供ができてからは、昼も夜もなかったから、寂しがる余裕もなかった。

 けれど、思えば、そうだ。

 子供ができてから、一人の夜は初めてだ。

「この二日、なにしてた?」

「……え?」

「ここで、一人で、なにしてた?」

「……海を――」と言葉を区切り、私は夫から目を逸らした。

 首を回し、窓を見る。

「――海を見てた」

 ギシッとベッドのスプリングが唸り、夫が立ち上がる。

 窓まで数歩。

 夫が窓枠に手を添えた。

「海を見て、落ち着けた?」

 今日はあまり天気が良くない。

 空はどんよりと曇っていて、揺れる木々の様子から風邪が強く、波は高い。

 私は夫の背中に、首を振る。

 落ち着けるはずなどない。

 落ち着こうともがいていただけ。

「場所を変えようか」

「え?」

 窓越しに、目が合った気がする。

「ここ、二人で泊まるには狭いだろ」

「泊まるの?」

「うん。インフルエンザなんだから、今日は帰れないだろ」

「でも、和輝は――」

 夫が振り向く。

「――荷物、持って」

 荷物なんて呼べるほどのものはない。

 パジャマはホテルにあるだろうと持ってこなかったし、化粧道具はポーチに入ったまま。

 簡単に化粧をして、ポーチをしまう。

「これだけ?」

 ちょっと遠出する時の、いつものトートバッグとショルダーバッグ。

 和輝はトートバッグを肩に掛けると、私の手を握って歩き出した。

 手を繋ぐのなんて、何年振りだろう。

 そんなことを考えながら、少しくすぐったい気持ちで夫の後に続いた。

 チェックアウトして二日振りに外に出ると、やはり風が強かった。

 ごわごわの髪がメデューサのように四方八方へと舞う。



 やっぱり、切ろうかな。



「あ!」

 繋いでいない方の手で、風に舞う髪を押さえつけながら、思い出して声を上げる。

 和輝が何事かと振り返った。

「どうした?」

「美容室、忘れてた」

「美容室?」

 和葉の卒業式は次の土曜日。

 その前にと、美容室を予約していた。

 今日の午後。

 ショルダーからスマホを取り出して画面をタップするが、真っ暗なまま。

「あれ?」

「充電、切れてるだろ」

「え?」

 そういえば、ホテルに来てから充電していない。

 昨日の夜、和葉と電話したのがスマホを使った最後だ。

「柚葉のお母さんもうちの母さんも心配してたぞ」

「え? お義母――さ――?」

 強風に目を開けていられず、私は髪を押さえたままギュッと目を閉じて風上に背を向ける。

 同時に、風を感じなくなる。
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