15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
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子供たちを抱っこしなくなって、一緒に眠ることも、お風呂に入ることもなくなってから、抱きしめられることはもちろん、人肌に触れることもなかった。
だから、忘れていた。
こんなに心地よくて、安心することを。
「あったかい……な」
ジャグジーでくつろぎながら、恥ずかしくてデキないんじゃないかと不安に思ったりもしたけれど、私を抱き締めて漏らした夫の言葉で、恥ずかしさより幸せな気持ちが勝ってしまった。
ただ、抱き合っていた。
バスローブなんて着慣れないものを着て、ベッドの上で。
そんな触れ合いすらなかった私たちには、こうしてただ抱き合うことも特別で、必要なのだと思う。
「そういえば――」と、うるさいほど激しく鳴り響いていた鼓動がやっと落ち着いた頃に、ぽつりと言った。
夫の鼓動を聞きながら。
「――私が書いた和葉の質問用紙、見たの?」
「うん」
「どうして……」
私はあの用紙を、捨てた。
リビングのゴミ箱に。
「柚葉のお母さんが、拾ってた」
「えっ!? お母さん、見たの?」
思わず顔を上げると、私の頭と自分の顎がぶつからないように、和輝が少し顎を上げて避けていた。
お互いの顔が見えるように、ほんの少しだけ身体を離す。
「浮気してるのかって、聞かれたよ」
「ごめん! 私、後で――」
「――ちゃんとわかってもらったよ」
「え?」
「柚葉を不安にさせたのは事実だけど、誤解だって」
和輝が広田さんと付き合っている頃から私が和輝を好きだったと、お母さんは知っている。
だから、私の書いた『元カノ』がその時の女性だと気づいたかもしれない。
「俺、柚葉にめちゃくちゃ愛されてたんだな」と、和輝がニッと笑った。
「え!?」
「女と一緒に暮らしてる男を好きになるなんて、よっぽどだろ」
やはり、お母さんは気づいて、話したようだ。
「今頃だけど、嬉しかったよ」
腕に力がこもり、強く抱き締められ、おでこに柔らかくて温かな感触がした。
恥ずかしい。
もちろん、キスではなく、私が和輝と知り合う前から和輝を好きだったと知られて。
「シたいん……だけど」
「うん……」
「大丈夫かな……」
「なにが?」
「色々……」
本当に不安そうに呟いた夫の身体は火照っているようで、バスローブ越しにもわかるほど。
本人が、年上だから格好悪い所を見せられなかったと言ったように、私の中の和輝は、いつも落ち着いていて、余裕があって、安心感を与えてくれる。
もしかしたら、私がそういう目で見ていたから、それに気付いていたから、余計に気負っていたのかもしれない。
けれど、男性が思う格好悪いことが、必ずしも女性が思う格好悪いこととは限らない。
言わなきゃわからないことだらけだ……。
どんなに長く一緒に暮らしても、わからないことはあると思う。
夫婦だからこそわかること、夫婦だからこそ見えないこと、見たくないこと。
「和輝がハジメテの彼氏だってこと……重くないかなって思ってた」
「重い?」
「面倒臭いとか」
「なんで」
「そんなことを聞いた気がして」
「そんなこと、思わなかった……と思う」
「自信ないんだ?」と、私はクスリと笑った。