15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

「柚葉」

 柚葉は風呂を覗いて「広い!」と声を上げた。

「さっき、なに言いかけた?」

「え?」

「うつむいて歩いてたって言った時」

「……なんで?」と聞く柚葉だが、俺を見ようとしない。

 さすがに、言い辛そうだから聞かない方がいい、とはもう思わない。

 あとで、あの時聞いておけば良かったと後悔するのはもう嫌だ。

「気になるから」

「なんでもないって――」

「――くだらないことでも話そうって言った」

 風呂の戸口に立つ柚葉を、後ろから抱き締める。

「柚葉の、なんでもない、はもう信じない」

「そんな……」

 妻のうなじに口づける。

 少しずつ場所を変え、何度も。

 雰囲気というのは大事だと思う。

 子供の気配のない、非日常的な場所で、懐かしい定食屋での食事効果もあって、気分はすっかり二十代だ。

「言えよ」

 昂りつつある下半身を押し付けるように妻の腰を抱くと、少し身を捩って逃げようとした。

「ちょ――」

「――柚葉」

 今まで意識したことはないが、自分のスイッチが入ったことが分かった。

 話をしようと言っておきながら、それどころではない体勢だ。

 柚葉の肩を掴んで振り向かせると、顎に手を添えて上を向かせ、唇を重ねた。

「ふ……ん」

 鼻にかかった甘い声が、キスを長引かせる。

 ぎゅうっと腕を強く掴まれてようやく、妻の顔を覗き込み、ギョッとした。

「柚葉!?」

 泣いている。

 顔を真っ赤にして、涙目を通り越して涙を流している。

 俺は反射的に妻の身体から手を離した。

「ごめ――」

「――もう……恥ずかしい」と言って、柚葉が両手で顔を覆う。

「え?」

「ドキドキし過ぎて死にそう……」

 ずるずるとその場にしゃがみこむ。

「……は?」

 俺も一緒にしゃがむ。

「さっき、私のこと『お前』って言った」

「え?」

「運転のこと話した時」



 言ったか?



 思い出す。

『お前に運転させる気はなかったんだよ』

「ああ」

「普段は言わないじゃない」

 確かに、言わない。

 広田と付き合っていた時、うっかり出た『お前』に対して、ブチギレられたことがある。

『女を見下してる!』と。

 もともと、それまで付き合ってきた女性に対しても言ったことはあまりなかったと思う。父さんが母さんに『お前』と言い、母さんがそれに対して怒っているのを知っていたから。

 だから、広田に対しては本当にうっかりだったのだが、それ以降、一層気をつけるようになった。

 そういうわけで、柚葉に対して『お前』と言ったことはあったかなかったか。

「ごめん、柚葉を――」

「――なんか、いつもの和輝じゃないみたいで、ドキドキしちゃって」

「……は?」



 ドキドキ!?



「今も、顎クイとかするし」



 アゴクイ……とは?



「キスもなんか激しいし」



 そう……かな?



「もう、無理……」

 ハッキリ言って、わからない。

 が、流れ的に、柚葉が怒ったり嫌がったりしているわけではないことはわかる。

 それどころか、喜んでいるのではないだろうか。



 調子に乗ってもいいところ……か?

 うん、いいところだな。


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