ポケットの中のおもいで
そんなこと,思ったことなかった。

私はぱちくりと目を丸くする。



「ねぇ,決めたよ,私! 薫は海を知らなすぎるから! 私が薫に教えてあげる。海を好きになって帰って?」



ぱっと広げられた両手。

その片方の手が私に向けられて,私は迷うことなくその手をとった。

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海月はまず,砂浜に座った。



「これで,遊ぼう」

「砂? 海じゃなくてもあるよ」

「もー,分かってないなぁ。全然違うはずだよ? 触ってみて」



さらさらしてて,あったかい。



「ね? じゃあ見てて」



そうしたり顔を向けた海月。

言い返す言葉もなく,私は少しだけ興味を持って,海月の手元を同じようにしゃがんでじっと見つめた。

ただの砂が,形を持っていく。



「どう? お城!」

「うん,すごい!」



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