ポケットの中のおもいで
「薫! お塩ってね,海でとれるんだよ!」


波打ち際まで走って,海水を手で掬った海月が,私にそう言う。



「知ってるよ」



それくらい。

私はふいっと顔をそらしてこたえた。



「ほんとかなぁ?」



にやにやと,そのまま近づいてくる。



「な,なに」



海月は私に,掬った海水をずいっと差し出した。



「舐めてみてよ」



えぇ…いやだ。

ちょっと引きぎみに,顔にもだすけど,海月のきらきらした笑顔は変わらない。

もう,なんなの?

私は仕方なく,人差し指をちょんとつけてペロリと舐めた。



「わっしょっぱい」



べーと舌を出して,私は顔を歪める。



「だから,塩なんだよ。面白いでしょ?」
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