オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
「春樹……体調悪いの?」

春樹がクスッと笑った。

「熱だすのは、いつも明香、怪我するのは、いつも冬馬。1年中、丈夫なのが俺だろ?」

「……でも未央さんが……春樹が頭痛起こしたって。……大丈夫なの?人間ドックの結果は?大丈夫だった?」

少しだけ震えてた、私の体をそっと抱きしめると、春樹が私の首元に顔を(うず)めた。

「俺のこと、そんなに心配してくれたんだ」

「そんなの当たり前だよっ」

春樹は、私の髪を愛おしそうに指先で漉く。

「確かに頭痛は起こしたよ、でも人間ドックの検査結果は異常なしだったから」

「ほんと?」 

声は、いつの間にか涙声になっていた。ほっとして。

「うん、大丈夫。明香を置いて、どこにも行かないっていってるじゃん」

春樹は、私のおでこにコツンと額をあてた。


「……あと、もう一個の明香の聞きたいこと……有給とって、出かけてごめん」

目を見開いた私を見て、春樹が、笑う。

「未央から聞いたんだろ?明香のことなら、何でもわかるから」

春樹は、私から目を逸らすと、ぎゅっと抱きしめた。

「……山下賢一(やましたけんいち)さんの事を調べてきた」


ーーーー山下賢一。

とくんと心臓が飛び跳ねた。さっき、こっそり見た、春樹のパソコンのメールの中の調査報告は、山下賢一に関するものだったから。

「あの絵のYのアルファベットは、苗字の……山下だったんだ」

「……うん、式挙げるのにさ、明香のお父さんにもウェディングドレス姿見せてあげたらどうかなって思ってさ……明香には、俺達の他に家族が居なかったから。お父さんに、会う会わないは明香に決めてもらおうと思ってて……で、とりあえず内緒で調べてたんだけど」

山下という苗字は知らなかった。

ただ、お母さんが、亡くなった時に、小さな女の子の後ろ姿を書いた絵が、押入れの隅から出てきた。

絵のサインは、Kenichi.Yと書かれていて、その長い黒髪の女の子の後ろ姿は私によく似ていた。お母さんが亡くなる前に、冬馬に私の父親の絵だと話していたそうだ。

確か、あの絵は、冬馬の部屋に置いてあった筈だ。

「春樹?」

黙り込んだ春樹を、私は、春樹の胸を両手で押すようにして、スペースをつくると見上げた。

その暗い表情で、すぐに分かる。
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