オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
第7章 罪は解けて溶けて
いつのまにか二月も下旬だ。

あれから、私は、冬馬とは一度も会っていない。

春樹と二人の生活は、とても穏やかで温かくて、気がつけば、冬馬と最後に話してから1ヶ月程経っていた。朝、冬馬の部屋を開けることもなければ、二人分の料理にも慣れて、春樹と一緒に眠り、朝一緒に起きる、そんな小さな小さな幸せの積み重ねが、私は、愛おしく思えていた。

今日は、有給をとった春樹と、結婚式場で、ウェディングドレスの試着とブーケの選定にきていた。

色々悩んだ末、やはり、春樹が、松原工業次期社長ということもあり、懇意にしてもらっている、ロイヤルリーガホテルの大広間を披露宴会場に、式は30階の屋上にある、ガラス張りの天空の教会で挙げることが決まった。

松原様と、書かれたプレートの個室で、ウェディングドレスのカタログ片手に、春樹と一緒にページを捲る。

私の、背中を覆うように、寄り添ってくれる春樹の体温が心地よい。春樹の匂いに安心して、目の前のカタログの景色が段々狭くなる。

「明香?」 

身体が、ビクンと、反応して、慌てて振り返って春樹の顔を見上げた。

春樹が、私の額に手を当てた。

「熱はないな……」

「……ごめんね、私……寝ちゃってた?」

「うん、俺の腕の中で気持ちよさそうに……昨日寝かしてあげなかったからかな」

春樹は、綺麗な二重瞼をニコリと細めた。

コンコンとノックされて、ウェディングプランナーの女性が、入ってくる。

「松原様、御試着のご用意が整いましたのでこちらへどうぞ」

試着室へ案内されると、事前に試着したいと連絡を入れていたウェディングドレスをプランナーの女性が、手際よく着せていく。全身鏡を見ながら、私の髪をアップにすると、造花の花冠を被せてくれた。

「松原様、よくお似合いですよ」 

まだ、春樹と籍を入れてない私は、松原様、という言葉にドギマギしてしまう。

プランナーの女性は、白いカーテンを広げて、春樹に声をかける。

「ご新郎様、ご新婦様の御試着終わりました」

「……どう、かな?……」

春樹は、唇を持ち上げて、満足そうにこちらを眺めていた。 

胸元から裾まで、キラキラと七色に光るビーズと真っ白な艶やかなパールが華やかにあしらわれていて、後ろに大きな羽のような、リボンのついたAラインのウェディングドレス。胸元には、白い薔薇を模したコサージュがついていて、肩までのヴェールも薔薇をモチーフにした刺繍が施されている。
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