オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
「……似合ってる?」

私が、姿見鏡から振り返ると、春樹がスマホを向けながら、二重瞼を細めて微笑んだ。

「やっぱ俺はこれが一番好きだな、明香に羽が生えてるみたいで、天使みたい。すごく綺麗だよ」

プランナーの女性が、いるすぐそばで春樹は、平気でそんな言葉を口にする。

「春樹。恥ずかしいよ」 

「何で?綺麗すぎて、俺は、誰にも見せたくないけどね」

赤くなった私を見ながら、ウェディングプランナーの女性が、ふわりと笑う。

「お写真など、お取りになっててくださいね、ブーケの見本を取って参りますので」

プランナーの女性が、扉を閉めると、すぐに春樹が、もう一度、姿見鏡を見ていた私を後ろから抱きしめた。

「ちょっと、春樹っ」

いつプランナーの人が帰ってくるかも分からないのに、春樹は私の頬に後ろから、軽く口付けた。

「ドレスから見えるところに、本当は全部つけときたい位なんだけどね」

「もう……」

真っ赤になった私から、悪戯っ子のような瞳をしながら、するりと腕を離すと、私の左手を取って、薬指の指輪を眺めた。

「春樹、式の日取り、今日こそ決めてかえる?」

「いや、ちょっと、まだ仕事が立て込んでて、ごめん……もう少しだけ待ってくれる?」

「うん、分かった、あんまり、お仕事無理しないで」

「ありがとう」

春樹は、触れるだけのキスを私に落とした。


ーーーーちょうど春樹のスマホが鳴る。

液晶画面を確認すると、春樹の顔が曇った。

「仕事だ、外で話してくるよ」

「分かった」

春樹は、少しまで、早く式の日取りを決めて、入籍したいと話していたのに、最近は、仕事を理由に先延ばしにしているのが、私は、気になっていた。

ただ、未央が心配していたような頭痛を起こすこともなく、春樹は変わらず、家庭的で、優しくて、私を毎日、愛してくれて、慈しむように抱いてくれる。

あの家で、二人での生活に満たされている一方で、春樹が、冬馬の話をしなくなったのだけが、私は、やっぱり寂しかった。

「お待たせ」

振り返れば、ちょうどプランナーの女性と春樹が戻ってきた。

「明香、ちょっと急ぎの案件入っちゃって、ごめんな、ブーケまた今度でいいかな?一回、明香、連れてかえって、そのまま出るよ」

「あ、じゃあ、私、電車で帰れるよ?」

春樹は、悩んだ顔をしている。

「子供じゃないから大丈夫、家ついたら連絡するね」

「そっか、ごめんな、タクシー乗れよ。じゃあまた夜に」

春樹は、そう言うと急いで出て行った。
< 131 / 201 >

この作品をシェア

pagetop