オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
「おはよう、珍しくギリギリね」
専務室の扉を開けると、秘書の、酒井未央がホットコーヒーを、机に置いたところだった。
栗色の長い髪の毛を後ろで束ねて、上品なシフォンの白のブラウスに黒のタイトスカートを履いている。
「相変わらず気が効くんだな」
「あら、褒めてくれるなんて、朝からご機嫌ね、可愛い彼女といいことでもあったのかしら?」
「まあね、今夜、明香の誕生日なんだ。近く改めてプロポーズする」
「ふぅん。あの子ね。幸之助おじ様とうちのパパが、許すかしらね」
つまらなさそうに未央が、デスクの上の写真立てを手に取った。大学の天文サークル時代におせっかいの篤が撮ってくれた写真だ。
未央の父親は地元で有名な病院の院長で、高校が同じだった。
俺は高校時代、未央と付き合っていた。
というより、未央に押されたのもあるが、親の勧めもあって付き合ったのだ。
あの頃から、俺は明香が好きだった。まだその時、明香は俺を兄としか見てはいない気がして、俺は燻った思いを抱えていた。
そんな俺を見透かしたかのような、未央のアプローチに負けて、高校二年から卒業まで交際していた。
親父は、未央を気に入っているのだ。だから自分兼俺の秘書として未央を側に置いている。
かと言って、明香と俺のことを反対している素振りはない。
明香が母親似だからなのかも知れない。
血は争えないなと、酒の席で一度だけ親父が言っていた事を思い出した。
「可愛い子ね、さすがは、幸之助おじ様の愛人だった女の娘ね」
「それ以上言うと、秘書から外れてもらうよ」
「明香さんのことになると、おじ様と一緒ね、まわりが見えなくなるのね」
写真立てを元に戻すと、未央が俺の目を見た。
「明香が1番だよ。勿論、仕事は、きちんとこなしてるつもりだけどね」
女にだらしない親父だが、冬馬と明香の母、平山理恵子のことは本気だったのかも知れない。
平山理恵子と別れてからは、親父は女遊びをしなくなった。代わりに仕事に邁進していった。
俺たちのことは、ほったらかしだったが。