オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
冬馬の掌は、私に触れたままだ。

春樹に、何か、言わなきゃいけない。

「あ、……また目眩して倒れちゃった」

私は、冬馬の掌を返すと、ゆっくり立ち上がる。 

慌てて春樹が、私の背中を支えた。

「大丈夫?」

「うん、大丈夫。目眩でお皿割っちゃって片付けようとした私を、冬馬が心配してくれて……そろそろ、帰ろうかな。……芽衣さんも眠っちゃったし」

「分かった」

春樹は、冬馬をじっと見つめた。

「春樹……悪かったな、明香まだ本調子じゃないのに来てもらって」

「いや、無事プロポーズも成功したこと、お前に言いたかったしな。じゃあ、タクシー呼んでおいたから、このまま明香連れて帰るよ」

ーーーー気のせいだろうか。気のせいであって欲しい。私は不安でいっぱいになる。春樹の冬馬を見る目がいつもと違ってみえたから。


帰りのタクシーで、春樹は、私の左手を握ったまま一言も話さなかった。

家にたどり着いて、ようやく左手が、離される。

玄関扉にを閉めると、春樹は、いつもみたいに、お風呂にお湯を溜めてくれた。

「あったまっておいで」

私の頬に触れると、それだけ言って、自室に向かって階段を登っていく。


私は、お風呂に入ると、身体を拭いてパジャマに袖を通す。冬馬につけられたキスマークは跡形もなく消えてなくなっていた。まるで、冬馬と一緒にあのオリオン座を、眺めた夜ごと消えてなくなってしまった気がして、心が押しつぶされそうになる。

春樹が、つけたまだ新しい、左胸のキスマークを、私は暫く眺めていた。

こうやって、離れて暮らすうちに、冬馬への想いも薄らいで、最後は消えていってしまうのだろうか。

左手の薬指に光る指輪を私は見つめた。

「結婚って何だろう……」

思わず、誰も聞いていない脱衣所で、言葉に出していた。結婚って、お互いに愛し合って、生涯、側にいることを望み、誓うことが前提なんじゃないだろうか。

今の私はどうだろう。春樹を、心から愛してると言えるだろうか。春樹の側に、生涯居ることを望むと、心から誓えるだろうか。

右手の人差し指がチクンと痛む。冬馬が止血してくれた人差し指を見ながら、あの時、冬馬に言いそうになった言葉を、私は飲み込むしかなかった。

< 80 / 201 >

この作品をシェア

pagetop