13歩よりも近い距離
「大丈夫?岳ちゃん」

 四歳の時も五歳の時も、私は岳と一緒にいた。

「転んだらね、こうすればいいんだよ。いたいのいたいの飛んでいけーって」

 歳下の岳の面倒を見るのが私の役目で、それに場所は一切問わない。砂場だろうが、幼稚園だろうが、家でも道端でも。ただそこに岳がいれば、私は気に掛けた。

「岳ちゃんは、すずたんが一生守ってあげるのだっ」

 そんな誓いを身勝手にしたのに、年齢を重ねるにつれて、岳はどんどんと私を置き去りにしていった。


「すず取れねえの?取ってやろうか?」

 最初にそれを感じたのは、小学校の体育倉庫。かかとを精一杯上げても届かぬフラフープに、ぷるぷると手を伸ばしていたら、背後から岳に声をかけられた。

「何個いるの?」
「な、なんで岳がいんの」
「なんでって。昼休みだし高橋たちとバスケでもしようと思って。すずは?」
「みっちゃんたちとフラフープでもしようと思って……」
「ははっ。そういや今度の運動会、六年女子はこれ使うんだっけ」
「そ、そう」
「だからラックの分は出払っちゃってるのか」

 背伸びもせずに、片手でひょいとフラフープを掴む岳。

「一本でいいの?」
「いや、二本……」
「うい」

 そう言って、もう一本も軽々取って、私に渡す。

「ありがとう……」

 この時私が抱いた感情は、綺麗なものと、汚いもの。
  

「ああ、また泣いてんのかよっ。脇役が死んだくらいで泣くなっ」

 いつもぴーぴー泣いていたのは岳だったはずなのに、ふと気付けば私ばかりが泣いていた。ドラマでも友達との喧嘩でも、めそめそめそめそとする私の隣で、岳はティッシュを差し出してきた。

「大丈夫?すず」

 これは、私の台詞だったはずなのに。
 私は岳を、ずっと手元で守りたかった。ずっとよしよししていたかった。けれど。

「すず、俺はお前のことが昔からずっと好きだった。すずのことは一生、俺が守る」

 そんな告白を中学一年生の春に初めて受けた時、いつの間にやら逆転していた立場に、ズキュンと胸に何かが刺さった。
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